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別冊現代農業2004年4月号 減農薬の宝物 木酢・竹酢・モミ酢とことん活用読本 より引用 木酢ボルドーで減農薬リンゴ 緻密でコクのあるリンゴ 群馬県甘楽町 新井重治さん 「私のリンゴ栽培における病虫害防除は、年六回の防除で行なっています。その六回それぞれの防除薬剤に、木酢液の五〇〇倍液を加用します。 ただし最終(八月十日散布)の止め消毒だけは三〇〇倍の加用でした。これは、カメムシの忌避効果をねらったもので、濃度を高くして散布しました。 通常の、リンゴ栽培農家の一般的な防除回数は十数回に及んでいますが、私の場合はそれと比較して約二分の一の防除回数で済ませています。その防除について詳しく述べてみます・・・。」 以下に続くその内容を防除暦ふうになおしてみたのが、次項の表です。見るといくつか面白い、中にはびっくりするような特徴がありました。 1.新井さんの防除の特徴 そのまず筆頭が、これはもうご本人もいう、防除回数の少なさです。開花前に一回、以後、「落花直後」を起点に五回だけの年六回です。 しかも八月上旬に止め消毒を打って以降は、無散布。リンゴではこれはちょっとないことです。またその使われている農薬がとてもオールド(古い)なのも目に付く特徴で、これが二点めです。 トモノールVやDDVP、硫ニコなんて懐かしい名前がラインナップされ、それらが堂々現役なのが新井さんの防除暦です。 三点めはボルドーへの注目です。これについては新井さんも、 「うちではボルドーは断然離せない薬になっている」といいますが、実際、新井さんの園では今やちょっと珍しい!?石灰で白く染まったリンゴの樹が並んでいます。 そして四点めが木酢。止め散布で三〇〇倍、通常は五〇〇倍で毎回必ず混用散布される木酢活用がやはり注目なのです。ただ、実はここで大いに驚かされるのですが、 右の通り新井さんの園はボルドーがベースの畑です。アルカリに酸性で大丈夫?と思ってしまうのですが、新井さんはそれを混用でも使っている!。 五点めの特徴がこれになります。 最後に六つめが、尻上がりに増えていくその薬液量で、枝が伸び、葉が茂るにしたがってというわけでしょう、後半とくに多くなっています。 さて、以上、六つ見つかりました。およそこんな防除で(木酢は今年で七年めですが)、新井さんは一五~一六年やってきたといいます。 後半、薬液量が多くなることを考えても、十分な減農薬栽培で、新井さんの言葉でいえば、低残留性には自信がある防除法、となります。 どうしてこんな防除になったのでしょう。効果はどうなのでしょう。きいてみたいと思いました。 2.ボルドーあっての六回防除 新井さんのリンゴ作りの師匠は、わい化栽培で有名な永田正夫さん(長野県須坂市)です。今もいろいろ教えてもらうそうで、群馬県下では、一番お世話になっている、というほどです。この永田さんが年六回の防除、やはりボルドーが基本の体系でした。弟子として、六回防除は自然の目標になりました。 基軸は無論、ボルドー。そのうえで、地域や自園の実情を加味しながら農薬を選択してきました。たとえば、ここ甘楽町は秋の気温が高く、遅くまで虫(シンクイなど)が出るところです。新井さんは無袋栽培ですが、有袋の人などは除袋してからの対策も必要なほどといいます。一方で、春は早く暖かいので、黒星病などは比較的少ない。そうした地域条件を見ながら、一回散布したら次までの間隔を開ける我慢で、一二~一三回だった防除をまず九回に、次いで七~八回に、と減らしてきたのでした。そして三年めで六回防除に持ち込み、以来ずっと六回でやれています。 昨年は春先からの天候不順で、ありとあらゆる病気、虫が取り沙汰されました。新井さんの周辺でも炭疽病がとくにひどく、四〇~五〇%も被害が出たような畑がありました。その中で新井さんはほとんど皆無。数えるほどの発生でした。 炭疽病だけではありません。斑落や黒点、赤星、褐斑、すす、・・・腐らん病さえまず出ないのです。 新井さんによれば、そればボルドーなのです。それほどボルドーの防除効果は高く、ボルドーあっての私の六回防除だ、といいます。 しかし、ボルドーは確かにいい薬だけどダニが多発しやすくて、・・・というのも、広く知られています。この点、新井さんも神経は使うといいますが、さりとて何をするというのでもありません。同じ殺ダニ剤の連用を避けることぐらいで(現在はテデオン、ピラニカ、オマイト)、取りあえずはそれだけ。でもそれで大して被害もなく、済んでいるのだから不思議です。(腐らん病には、ベフラン塗布剤に木酢タールを混ぜ、削り取った病斑部に塗り込む。カルスの形成がよい) 3.ダニが少ない理由 そのわけの一つを新井さんはこういいます。「ボルドーを使うと新梢の節間が詰まる。葉も小さく堅く、裏返ったようになる。これで陽当たり風通しがよくなり、虫もすくわない。薬がよく届く」 それともう一つ、ダニが少ない理由がありそうです。それが、ボルドー散布の連年効果ともいえそうなもので、ボルドーの高い抗菌能力、そのまず十数年の連用、蓄積!?によって、新井さんの園そのものが高いレベルの抗菌空間になっている、ということです。したがって、防除回数も少ないし、古い農薬でも叩ける。・・・減防除の実行サイクルに入っているわけです。 また新井さんは、除草剤も使いません。すると、こうした条件は「菌や虫に抵抗力をなかなかつけない」ために、その減防除の実行をさらに固める一方、畑に虫たちが居着きやすい環境も提供します。 きっとハダニ類の天敵なども棲みやすいはずです。少なくとも、その活動レベルはよそよりずっと高い、とも考えられるのです。 ボルドーを起点に新井さんの園はダニが防ぎやすいじょうけんになっていた・・・。 早め早めのタイミングで散布量をたっぷり、というのも新井さんのテクニックです。固着剤(ペタンV)も濃いめに使います。 でも、それだけでちょっとわからず、右のように考えてみるとなるほど、と思える、新井さんのリンゴ園のダニ被害の少なさです。 石灰溶くのが大変、消毒後の掃除が大変、というのはありますが、もう一度ボルドーの実洗い、というようなことは今年あたり見直していいのかもしれません。 4.木酢とボルドーの共用 さて、このボルドー防除園へ数年前から加わったのが木酢です。新井さんの畑はこの木酢が加わったことで、さらの減農薬の空間として強固なものになったようです。 木酢を新井さんは、「深みはないかもしれないけれど、幅広く効く」と見てます。効き方はボルドーと同じようで、葉を厚くしガツンと立たせ、新梢をぎゅっと締めます。おかげで、風の通り抜けをよくし、樹冠に陽光をよく入れます。また、リンゴの質も上がるようなのが木酢で、熟度が増す、と新井さん。ここにきてさらに手応えを感じているそうですが、実は、当初困ったのでした。当然ボルドーとの“共用”は困難と思ったからです。「だけど木酢も使いたい」。 そこでひねり出したのが、硫酸銅への木酢混用、その硫酸銅木酢液の石灰への注ぎ込みというアクロバットでした。 「先に硫酸銅のほうへ混ぜてしまう。それからアルカリの石灰へ、という段取りなら、もしやと思ったわけです。その通りになりました」 木酢加用ボルドー、というものがこれでできました。 葉面微生物がふえ、拮抗作用が働く木酢の効果に加え、この木酢ボルドーには、石灰効果が期待できます。生育盛期の石灰吸収があがり、そのことによる耐病性のアップも考えられる、というわけです。 ただし、あわてて作ってはだめです。硫酸銅が容器の底に残ってないよう、十分に溶けたところへ木酢は混ぜたほうがよく、一日二日では間に合わないときがありますから、段取りをきちんとしておくことが大事です。またくれぐれも石灰に木酢を混ぜないよう注意します。危険です。 ほかの農薬とも混用されてますが、この木酢ボルドー液が新井さんの園を病虫害に対しかなりタフなものにしていることは確かなようです。 ボルドーと木酢との共用効果。これまでほとんど誰もやらなかった実践ですが(何せタブーでした)、注目されます。 5.ボルドー、木酢の低農薬が売りになる 新井さんの「富貴上リンゴ園」は、直売が主力。つがるの一部を除いて、あとは観光もぎ取り、贈答宅配、オーナー制、とほぼ一〇〇%、直で売り切ります。 もぎ取りの看板を見てやってくるお客さんは畑をみて、たいていが「わーっ!!」と思うようです。 樹も真っ白なら、リンゴにも白く膜がかかっている。富貴上リンゴ園のリンゴはよそとはだいぶ違うからです。これ、もろ、農薬じゃない!という反応があります。 しかし、ここから富貴上リンゴ園の営業なのです。「うんと消毒かかってますねぇ」と、声をかけてきたお客さんがいたら、すかさず新井さんは、こう答えます。 「これは石灰ボルドーって薬なんですよ。白いのはその石灰のせいでね。で、これでリンゴをおおってやると、害虫はリンゴをかじる前に石をかじらされることになる。え?いや、石灰ってもとは石、石灰岩。 それの粉を使っている。でも、そんなの虫だって嫌でしょ、だから、これでリンゴの実も守られる。実が小さいうちからこの石灰でリンゴをくるんであげることで、ほかの殺虫剤もうんと減らせるんですよ」 減農薬の立役者こそがこの白い薬、石灰ボルドーだという話を展開するのです。 6.目標は緻密でコクのあるリンゴ 無論、その前にリンゴがおいしくなければだめです。おいしければこそ、よく耳も傾けてくれるからです。 一通のリンゴの注文の手紙を見せてもらいました。「あまりのおいしさに感激してペンをとった次第」、もともとあまりリンゴは好きでなかったが、「あっというまに一個皮ごと、・・・とにかく香りが違います」。 相当のラブコールでした。二九歳の若いお母さんからのものです。 暖地の群馬のリンゴは、東北などにくらべ、糖度を上げるのは比較的容易です。逆に難しいのが、着色、蜜の入り、そして果肉の締まりだといいます。ボケも早い。 「だから私の目標は、糖度とかじゃないですよ。糖度じたいは目標じゃないと思っている」 新井さんが思い描くのは、緻密なリンゴ。歯ごたえがあって、果汁が多くて、甘味に酸味が加わるコクのあるリンゴだといいます。またそういうリンゴになってくれれば、おのずと糖度も上がります。その判定は人の口が一番、糖度計の数値は二の次と思い、新井さんはこれまでとくに測ったことはなかったそうですが、今回、試しに調べたら、「陽光」で一七度でした(十月二日時点で。収穫の一〇日ほど前)。ジュース用に取り分けておいた傷物の一個です。このぶんなら、ふじでは二〇度もいくのではないかとのことです。目標は、そんなリンゴの味の締まり、甘酸っぱさの確保ですが、それには木酢ボルドーが一役かっているのだそうです。 |